日本の真のおもてなしを|ザ・キャピトルホテル 東急 CASE #009
かつての日本人の衣食住は、すべて立派であった。国外に遠慮するものあったら、それは間違いだ。
~北大路魯山人~
国会議事堂から500m。江戸城の鎮守として祀られた日枝神社に隣接する場所に『ザ・キャピトルホテル 東急』はある。冒頭の一文は、かつてここに会員制高級料亭『星岡茶寮(ほしがおかさりょう)』を受け継いだ、芸術家であり美食家でもあった北大路魯山人の言葉だ。
日本初の外資系ホテル『東京ヒルトンホテル』として20年、その後『キャピトル東急ホテル』として23年。2つの名称で歩んできたホテルは、日本のホテル業界の発展を牽引してきた。2010年秋、『ザ・キャピトルホテル 東急』としてリニューアル後も、国内外のVIP、著名なアーティストたちに愛されている。
世界からの“賓”が訪れる場所柄。そこにRitzwellの家具がどのように収まっているのか、副総支配人の橋本好美さんにお話を伺った。
歴史を継ぎ、地に根ざす
「このホテルが建っているところは元々小高い丘でした。星の眺めが美しい場所として有名で、明治時代にはこの地に華族の社交場を、大正末期には北大路魯山人が美食倶楽部『星岡茶寮』を開きました。時代を経て1963年には日本初の外資系ホテル“東京ヒルトンホテル”が誕生しました。ヒルトンとして20年、キャピトル東急ホテルとして23年の合計43年が経ち、建物の老朽化により建て替えることになり、2010年に新生『ザ・キャピトルホテル 東急』として再始動しました」。
オープンまでの2年間、橋本さんは開業プロジェクトに携わる。東急キャピトルタワーが目指したのは、日本建築の底流にある“自然・建物・文化の三位一体”の視点だ。
伝統的な和のスタイルと新しい日本の美が一体化した、唯一無二のラグジュアリーホテルとなるべく、ザ・キャピトルホテル 東急は、そのブランドコンセプトを体現していった。
「東急グループのフラッグシップホテルとして、東急ブランド全体の価値を高めるというミッションと、すべてのステークホルダーに満足していただけるホテルを作ることが求められていました」。
2010年10月、ザ・キャピトルホテル 東急がオープン。北米・ヨーロッパ・アジアなど、外国人宿泊客は増加しており、最近はコロナ禍以前の稼働率に戻りつつある。ちなみにキャピトル(Capitol)とは“議事堂”を意味する。目と鼻の先という位置関係が分かりやすい。
「客室部門では外国人富裕層が全体の7割以上となっています。レストランでは場所柄、国会議員や企業のトップの方々、隣接した日枝神社を訪れるファミリーのご利用が多いですね。一般的なホテルでしたら、宴会場の利用は夜がメインであり、午前中はほとんど稼働しないことが多いのですが、当ホテルでは朝から会合や勉強会などに利用されることも多く、宴会場は朝昼晩フル稼働しています」。
婚礼では日枝神社で挙式を行い、ザ・キャピトルホテル 東急で披露宴をするケースが多いという。また、業界では“食の東急”と言われるほど、料理には定評がある。
「私たちのホテルは料理が美味しいということを自負しています。ホテルでの食事と言えば高級フレンチというイメージがあり、実際にホテルの料理人はフレンチを学んできた方がほとんどです。2010年の開業時、ホテルの中で最も格式の高いレストランであるメインダイニングを、従来通りの高級フレンチにするか新たに日本料理にするか、かなり時間をかけて討議しました。最終的にブランドビジョンに立ち返り、このホテルでは日本の真のおもてなしを目指したいという思いから、メインダイニングは日本料理に決定しました。その後、2013年に『和食』がユネスコ無形文化遺産になったこともあり、あの時の選択は間違いではなかったと思っています」。
世界でも見劣りしない本格的なホテルへ
『東京ヒルトンホテル』が日本初の外資系ホテルということもあり、昔から多くの海外アーティストやV.I.Pの方々に愛されてきたザ・キャピトルホテル 東急には、隠れ家的な要素がある。緑豊かな日枝神社に隣接する環境もあり、やはり日本らしい設え(しつらえ)や和の要素を感じられるインテリアがぴったりだ。
「この春、東京八重洲にオープンした外資系ホテルが一泊25万円と話題になりましたが、日本のホテルは以前より、一流ホテルでも世界基準においてはかなり価格が安いと言われてきました。私は旅行が好きで、これまで海外の様々なホテルに宿泊してきましたが、パリ、ロンドン、ミラノ、ニューヨーク、L.A.など、世界の大都市と比較すると東京のホテルは料金がリーズナブルであると感じていました。コロナ禍の苦しい時代を経て、原価、人件費、エネルギーコストの全てが上昇している厳しい環境において、各ホテルが提供するサービスに相応しい価格帯に、ようやく世の中が追いついてきたと感じています。特に人材不足は業界全体にとって、かなり深刻な問題であり、コロナ禍以前の運営方法では、重要な指標である顧客満足度、社員満足度の両方が下がっていくことになります。私たちには対価に相応しい価値を創造していく義務があります」。
ザ・キャピトルホテル 東急のある東急キャピトルタワーは、 隈研吾建築都市設計事務所が外観及び共用部インテリア、ホテルのメインロビーなどのデザインを監修。空間全体の陰影が際立つ、シンプルで日本を感じさせるデザインになっている。
Ritzwellの家具を取り入れることになったのは2019年。ザ・キャピトルホテル 東急がオープンして8〜9年経った頃だ。
「開業から12年が経過しました。これまでもソフト、ハードともに定期的に見直しはしてきましたが、世界のラグジュアリーホテルの日本進出が増えている中、競合するホテルと互角に戦っていくには、さらに中身を磨いていく必要があります。私たちは数年前より、フォーブス・トラベルガイドという世界的なホテル格付けに挑戦してきました。推薦枠からスタートし、4スターを経て、ようやく3年前に目標としていた5スターに到達し、その後も維持しています。サービス面でのスキル向上はもちろんですが、ハード面でも美しく手入れされ、機能的であることは当然であり、それに加えお客様の心に響く感動を与えられるものが必要でした。客室改装にあたり、ハイクラスの客室にはザ・キャピトルホテル 東急に相応しい本物感のある家具を置こうということになりました。その中で、世界に存在感を示すことができる、日本を代表するホテルにしたいという思いから、新たに選ぶ家具は、海外の有名ブランドではなく、ジャパンメイドで、和の雰囲気が感じられる一流の物にしようということになりました」。
そして、オールデイダイニング『ORIGAMI』、ザ・キャピトル バー、クラブフロアの専用ラウンジ『The Capitol Lounge SaRyoh』などにRitzwellの家具を導入していただくこととなった。
「Ritzwellの家具は、細かい所まで作り手の配慮が行き届いており、このザ・キャピトル スイートに置いているBEATRIX(ベアトリクス)も人間工学に基づき、身体をすっぽりと包み込むような優しさ、心地よさがありますよね。また木・革・布等の異素材をユニークに使い分けた表情の面白さもあります。繊細で温かみのあるラインでありながらカジュアル過ぎず、“引き算の美学”が家具の雰囲気に感じられ、高級感と和のシンプルなイメージが微妙なバランスを保っています。日本ならではの高品質の素材で、優れた職人が精魂込めて作っている完成度の高いものは他にもありますが、デザイン面でシンプルモダンをコンセプトにしたホテルには重い印象となり、内装デザインと合わせ辛かったりもします。Ritzwellは、日本の美意識を感じさせながらも、どこか軽やかで洗練されていて、ザ・キャピトルホテル 東急が目指す方向性と一致していると思っています。おかげさまで外国からのお客様の反応もすごく良いですよ」。
確かにRitzwellは創業当時から海外の方達にもニュートラルなポジションで選びやすい家具を目指してきた。繊細で余計なものを感じさせない、削ぎ落とされた美を作り出そうとしている。引き算の美学に共感していただけて光栄だ。
これからのザ・キャピトルホテル 東急
「お客様の個性はそれぞれです。例えば室内の備品の配置なども、連泊のお客様にはより使いやすいように、その方の動線を考えた上で並べ方を微妙に変えるなど、常に細やかな視点を持ち、想像力を働かせるようにしています。5スターは取得するのも大変ですが、実は獲得してからも大変です。もちろん5スターを維持できている要素には、家具の存在も大きいと思います」。
5スターのホテルスタッフに求められるサービスには上限はなく、お客様の行動を常に予測をして先に動くことがとても重要なのだ。お客様のご要望にお応えできない時であっても、機転を利かせたスタッフのお声掛けひとつで形勢が逆転し、その状況がリカバリーできることもあるのだという。
「私たちラグジュアリーホテルにとって、これからますます力を入れていくべきは、よりパーソナルなサービスです。例えば、お客様の苦手な食べ物や、お休みになる時のお好みのセッティング、朝のルーティーンなど、ハウスキーピング、ベル、レストラン、フロントレセプション、コンシェルジュ、ゲストリレーションズのスタッフの間で、それぞれ細かい情報を共有しています。次回いらっしゃった時には、お客様が予約の段階で何も言わなくてもお好みの快適な環境がホテル内には用意されています。“私たちは全部分かってますよ、あなたのこと。だから今日もきちんと準備して、あなたをお待ちしているのです”と。自然にあくまでもさりげなく、最高の和らぎの空間をお客様に提供できるホテルが、やはり一流ではないかと思います。私たちは常にゲストのために、そうありたいのです」。
こんな細やかな心遣いまでは流石にAIに真似はできないだろう。
最高のホテルを目指し、それを維持する努力を惜しまないザ・キャピトルホテル 東急。その一員としてRitzwellの家具も役目を果たせているとすればこんなに嬉しいことはない。歴史あるホテルの、ホスピタリティ溢れる空間に、これからもしっかりと馴染んでいきたい。
家具の世界にはガイドブックの格付けはないけれど、Ritzwellが毎年出展している『ミラノサローネ』が、そういう場に当たるのかも知れない。
Ritzwellの家具に触れる全ての人、そしてRitzwellの家具に愛情を注いでくれる全てのオーナー様に真価が問われる。ザ・キャピトルホテル 東急のスタッフ一人ひとりがそうするように、Ritzwellも自問と研鑽を積む。感謝と共に。
ザ・キャピトルホテル 東急
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