【社交場】=人とのつきあいを目的とした集まりや、歓談などを行う場所や施設のこと。


大人の社交場にRitzwell の家具達が納品されたと聞き、ちょっとドキドキした。
東京都港区北青山の一角に、そんな社交場を持つ中小企業がある。


株式会社 河野製作所は、計測機器用指針の製造会社として1949年に創業。現在は『クラウンジュン』ブランドで医療機器の開発から製造、販売まで一貫して行う。2024年8月には、医療機器の販売、調査およびマーケティングを行う、株式会社CJKメディカルラボ本社を御茶ノ水から北青山に移転。カフェを併設したオープンイノベーションオフィスが誕生した。そこに納入されたRitzwellの家具達はおよそ10種類という。グループ代表の河野淳一さんにお話を伺った。

多品種少量生産

「祖父が職人の経験を活かして始めた会社です。父の代からは医療分野に進出しました。その後、私が28歳の時に父の意志を受け継ぎ、勤めていた損害保険会社を辞めて入社しました。“もっと小さくて精工な手術針は作れないだろうか”というような、臨床医療の現場からの要望に応えながら、医療機器メーカーとして成長させていただいています」。

千代田線表参道駅から徒歩1 分、北青山にあるビルにCJK メディカルラボがある

「クラウンジュン」ブランドのマーケティング、販売部門である株式会社クラウンジュン・コウノは、技術開発型ベンチャー企業。独自の微細製造技術を武器に世界でオンリーワンのものを作っていく『グローバルニッチトップへの挑戦』を掲げる。

「症例数が少ない傷病は世の中にたくさんあります。ですが市場規模が小さいマーケットには大手メーカーの参入が見込めません。私たちは小さなマーケットでのニーズに多品種少量生産で応えていきたい。国内だけでなく世界を相手にグローバルな中でニッチマーケットを開拓していく手法です。根本には少数の患者さんを切り捨てることなく救う製品を創りたい、という強い想いがあります」。

7:3 カルチャー

CJK メディカルラボ2 階にはRitzwell の椅子とソファがランダムに並ぶ

「私たちは基本的にものづくりの会社です。1 年に2 つ以上の新製品を出すために、常に20~30 の開発案件を抱えています。ドクターからの要望を汲みとることも重要です。その中で私たちの開発した技術が、それまで不可能だった治療方法を可能にすることもあります。重要なのはニーズ志向を、新しいアイデアの実現を目指すシーズ志向と結ぶこと。医療分野のニーズに工学分野におけるシーズを対応させ、製品開発を行う『医工連携』です」。

人とのつながりを大切にしてものづくりをしていく。ないものはゼロから作るという精神なのだそうだ。それを可能にしているのが2018 年ごろから本格的に取り組みはじめた『7:3 カルチャー』。勤務時間の30%を通常業務ではないプロジェクトに充てるという企業文化だ。それは新たなことにチャレンジするための時間。トップダウンではなく、誰でも新規プロジェクトを立ち上げることで、若い社員の活躍の場が広がったという。

「今までになかった製品を開発し、市場を創造していくのが私たちのビジネスモデルです。まだない製品を作り出すためには、余裕を持って仕事に取り組まなければできません。現在社員数は200名弱ですが、本業だけなら70%の人員と時間で十分です。常にゼロから市場を作っていく気概を持って取り組まなければ、良いアイデアや画期的な製品は生まれません。プロジェクトで動かすのも、縦ではなく横軸で動かしたいからです」。

つくば工場の増築の際も、新工場プロジェクトと称して社員主導で取り組んだそうだ。筑波大学のプレイスメイキングの専門家の先生や、大学生との共同プロジェクトで取り組み、その様子をオウンドメディ『TSUNAGU』で発信している。社員ひとりひとりが失敗を恐れず挑戦した先に、工夫が生まれ、技術が研かれるのだ。

以前つくばの工場で生産管理を行っていた社員が、カフェでラテアートを描く
道行く人々から“新規オープンのカフェかも?” の視線を感じるそうだ

世界最小の手術針

名刺にはゴマと比較した手術針の写真が載る。世界最小30μm

長さ0.8mm の手術用針の直径は0.03mm、つまり30μm(マイクロメートル)。人の髪の毛の直径は40~120μm なので、髪の毛よりも細い針。クラウンジュンが2001(平成13)年製品化に成功した画期的な世界最小の手術用針だ。

「30μm の手術用針は、それまで叶わなかった領域の手術を可能にしました。0.5mm 以下の血管や神経の縫合を行える唯一の手術針として、マイクロサージャリー(微小外科)に従事されている医師の皆さまからも高い評価を受けています。今ではリンパ管縫合が一般化しつつありますが、世界中に広まるまでに20 数年かかりました(笑)。日本の誇れる技術であっても、広めることが苦手だと置いてきぼりになってしまいます。良いものを自ら広めていき、人と人とをつなぎ、イノベーションを起こしたい」。

クラウンジュンの30μm の手術用針は、低侵襲医療(ていしんしゅういりょう=手術や検査において身体への負担を少なくする医療)に貢献したとして、2009 年には『ものづくり日本大賞 内閣総理大臣賞』を受賞している

Ritzwell との出会い

「Ritzwell との最初の出会いは、ホテルかどこかで見て、素敵なソファと椅子だなぁと思ったことでした。海外メーカーかな?と検索してみたら日本のメーカーでびっくりしたことを覚えています。まず自宅用に購入しました。革はすごく良いものを使っているな、こんな日本の家具メーカーがあったんだ、と使ってみてまたびっくり(笑)。プロダクトから伝わってくる真面目さ。これは同じものづくりに取り組んでいるからよく分かります。良いものを作ろうという気持ちが伝わってきます。クオリティが高く手仕事の感触が残っているのも素晴らしい。2022 年に御茶ノ水にクラウンジュン・コウノ 東京本社を移転した際には、社長室の応接セットだけはRitzwell にしてくれとお願いしました(笑)」。

動きのある前肘の形状がクラシックな優雅さを醸し出すVERSE ラウンジチェア
背座の厚革シェルがシャープな表情をつくる

ものづくりの姿勢、プロダクトで感動を与えるために、まず職人の感性を磨かなければならないと、Ritzwell も考えている。製作環境の充実を図るため糸島シーサイドファクトリーを作り、Ritzwell 表参道ショップ& アトリエには小さな工房を設けた。お客様と職人が直接交流する機会を得るとともに、私たちの姿勢を知ってもらうためだ。

2階はミーティングやセミナー、各種イベントなどを行える社内外へ開かれた多目的スペース

「職人さんは良い環境で、良いモチベーションで作らないと、決して良いものはできませんよね。逆につくられたものを見れば製作環境が分かります。ここ(CJKメディカルラボ2階)の家具は全部Ritzwellにして欲しいとお願いしました。私からの唯一のリクエストです。このテーブルもRitzwellの家具に合わせて造作してもらいました。イレギュラーな形をしていますが、全部まとめると大きな円卓になります。

人の手に心地よくなじむ肘掛けが特徴のRIVAGEイージーチェア

オープンイノベーションの拠点として

左右肘掛けソファのARMSTRONGをジョイントし奥まった場所に

CJKメディカルラボのあるこの拠点も、部門をまたいだ社員同士がオフィスプロジェクトで進めたそうだ。駐車場だったこの場所にオフィスビルの計画があるという情報を入手し、着工前に契約したという。

「みんな自由に伸び伸びとやっていると思います。失敗していいんです。失敗しないでできたものにはろくなものがないですから(笑)。失敗から学んで、どんどん技術を向上させた方が良い。そして“自分たちが作ったものを持って現場の声を聞いておいで”と、常に言っています。ドクターや患者会からのフィードバックをもらってこないと、的確なニーズは掴めません」。

健康寿命を伸ばす医療、ヘルスケア分野までもトータルに事業を展開するクラウンジュン。
そのためには広い視野を持ち、医療分野以外のあらゆる業界の方達とのコミュニケーションを図るために、このオープンイノベーションオフィスが生まれた。

「この場所はつなぐことをテーマにしています。医療をはじめ、異業種の方々との社交場です。つながりを作り、そこから新しいイノベーションを引き起こします。趣味でカフェを始めたの?と質問されることもありますが、全く違います(笑)。3階のゴルフシミュレーターも、1階のカフェも、あくまでここに集う皆さんが親睦を深めるためのツールです」。

ドクターもここでは地位や名誉は関係なくなる。そんな人と人をつなぐ場所を目指した。そのためにRitzwellの家具を10種類以上揃えたという。

3階のラウンジにはワインセラーも備える。ゴルフシミュレーターはフリーで利用できる。ゴルフ愛好家にはたまらない空間だ

「居心地が良いからか、お越しいただいた方の中には“すぐに帰りますから”とおっしゃっても、なかなかお帰りにならない方もいます(笑)。いろんな椅子があれば席順も生まれない。いわゆるオフィス然としていると垣根を取り払った交流は難しいです」。

2Fはプレゼンテーション・勉強会、イベントなどに使える多目的スペースとして。3Fはゴルフというひとつのスポーツを通して、相互間の距離を縮める場としての役割が異なっている。

「これどこの家具?と聞かれることも多いです。私が選んだ家具をそんなふうに言ってくださることが嬉しいですね。座ってみて、触れてみて感じる心地良さがあると思います。ぜひRitzwellの実例ショールームとしても使ってください、ご近所ですし(笑)」。

RIVAGEシリーズのスツールとGQ TABLEの小休止コーナー。ふたつとも持ち運びしやすいので、スピーディに居場所を作りやすい
2023年に発売したMERCURYラウンジチェアが並ぶ。発売と同年のアーキプロダクツ デザイン賞(イタリア)を受賞した。2Fにも色違いが採用されている

まさに大人の社交場の雰囲気だ。 このオープンイノベーションオフィスは、これからのさらなる活用方法をプロジェクトを絡めて発展させていくのだという。すでにチェロのコンサートの計画などもあるそうだ。

つなぐ場所、つなぐ家具

社内ではこの場所でセミナーやミーティングを行うと、これまで以上に議論が盛り上がるようになったという。

「環境って大切ですね。事務机に事務椅子だったらそうはならないでしょうね。社内外に等しく、オープンイノベーションでやらないと画期的なものは生まれないと実感しています。この場所のコンセプトが浸透するにはどのくらいかかるかな。やっぱり結果を出さないと理解してもらえないでしょうね(笑)。直径30μmの手術針も世の中に広まるまでずいぶん時間がかかりましたから。私たちがどういう想いでやっているか、ちゃんと発信していかないと、気づいてもらえないですからね」。

CROWNJUN CAFE &…(クラウンジュン・カフェ)は、筑波大学の大学院生だったサザコーヒーの社長とのご縁からコラボレーションで実現した。クラウンジュンオリジナルのコーヒー豆も監修

良いものに触れると自然に身に付く価値観がある。
1階のカフェで本格的なカフェラテを楽しみながら、打ち合わせをする方々が居られた。製品を作るための工作機械までも自社で製作するというから、カフェ運営まで社員で行うことにもブレない軸を感じる。人材育成のケーススタディとしても貴重な手法ではないだろうか。

このオープンイノベーションオフィスは、まさに人と人とをつなぎ、イノベーションを起こす大人の社交場だ。環境が人を育てるというが、その環境を作るのもまた人である。より良い発展の場として育つことを願い、またRitzwellの家具達がその一員になれたことを誇りに思う。

河野社長ありがとうございました。

株式会社CJKメディカルラボ(河野製作所グループ企業)

〒107-0061
東京都港区北青山3-10-12

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