潮騒のファクトリー CASE #013
五感に深く、静かに。
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“不可能と思われようとも自分の信念を貫くこと”
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャはその象徴として、Ritzwell糸島シーサードファクトリーのロビーに立つ。吹き抜けのこの位置はファクトリー内を良く見渡せる。日々職人達の仕事ぶりを見守っているように。
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Ritzwellは1992年福岡の地に誕生し、2019年このRitzwell糸島シーサイドファクトリーを開設した。上質な家具作りに必要な美意識や技術力は、快適な環境があってのことだからだ。おそらく家具工場と聞くと雑然とした場所を想像する方も多いだろう。Ritzwellも当初はその例外ではなかった。
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しかし、Ritzwellの使命は、『心に響く独自の家具とその空間を創造し、それを共鳴する世界中の人々へ伝えていくこと。そして、人生をも変えるような感動を与えつづけること』であることからして、まずは自分たちが、感動を持ち続けて家具を作らなければ、共鳴など期待できないだろう。
職人達も五感を研ぎ澄ませ家具作りに没頭することができる環境を熱望した。喜ばしいことに、ファクトリーを糸島に移してからというもの、検品ではじかれる完成品の数が格段に減った。やはり環境が人を育て、品質を上げる。
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ファクトリーの向こうには玄界灘がある。窓を開ければ潮騒が聞こえてくる距離だ。当初福岡市内から通っていた職人たちも、糸島に引っ越した者が多い。生活するにも自然の豊かさを実感できる環境なのだ。
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さてこの日は見学のお客様達がお見えになった。空へひらくStudiolo|SHARE LOUNGE〈外苑前〉でご紹介させていただいた、TSUTAYAシェアラウンジを運営する、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)デザインチームの面々だ。TSUTAYAの店舗でもRitzwellの家具たちを導入していただいているが、“つくるところをぜひ見てみたい”とリクエストをいただいた。
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Ritzwell糸島シーサイドファクトリーでは、見学を希望する方に製作現場の全てをご覧いただいている。Ritzwellのモノづくりの現場を実際に見ていただき、職人と同じ空気を吸ってもらえば、Ritzwellの目指すものが自然と伝わるはずだからだ。
まずは1階のミーティングルームでRitzwellの家具に実際に触れてもらいながら、ブランドポリシーなどを共有。ガラス越しに見える職人達の作業風景が、すでに気になっているCCCデザインチームの皆さん。
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手前味噌になるが受賞歴なども紹介させていただいた。賞のために家具を作っている訳ではないが、Ritzwellの現在地、そしてこれから目指す場所を、自他共に確認できる道標となっている。
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それでは製作現場を見て頂こう。
吹き抜けのホールには手描きのスケッチや指針になるテキストが額装してある。筆跡を通していつでも想いを共有できるように展示してあるのだ。
Ritzwellでは代表取締役である宮本晋作が、自らデザインを行っているので、唯一無二のプロダクトを持つブランドとなっている。そしてそこが我々の強みである。
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2階へ上がるとラウンジスペースがある。海の見えるリビングを想定してコーディネートしてあるからイメージが湧きやすい。CCCデザインチームの皆さんが特に興味を持たれたのは、JABARAサイドボード。構造を把握しようと熱心にご覧いただいた。JABARAの扉は木が擦れる音まで計算してある。美しさだけではなく、そういうところまで関心を寄せていただき誠に光栄だ。
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回廊とアトリエの間には、Ritzwellの3つのマインドと共に製品も展示されている。思想と事物が乖離しないよう、職人達にとっても大切な空間になっている。
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2階アトリエでは加工や裁断、縫製を行う。以前はすべて手作業だったが、裁断だけはコンピュータ制御の大型裁断機で行う。プロジェクターで型枠を投影し、ワイヤレスコントローラーで微調整し裁断する。他の工程は今も全て手作業だ。
イタリアなどから届いたファブリックやレザーもここにストックし、使用量を明記しながら大切に使う。Ritzwellの各シリーズは基本的にモデルごとに素材を選ぶセミオーダー方式で過剰生産はしない。
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レザーに小傷などがないか入念にチェック。曲面に引っ張った状態でも確認する。傷はあったらあったで生きていた証だから、傷を避けながら無駄なく裁断する。省いた部位の利用方法は後ほど解説しよう。
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革を折り返したり重ねたりする箇所を野暮ったくさせないために薄く削る機械。よりスタイリッシュに見せる工夫だ。地味だがとても重要な作業。この後縫いの工程へと進む。
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こちらは厚革を3枚縫い合わせることもできる強力なミシン。
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厚革の断面(コバ)を磨く作業。カンナで削り、専用のワックスを馴染ませて磨き上げる。ガラス片を使ったりもする。Ritzwellの商品では見せ場になる箇所だけに、集中力と根気のいる作業だ。
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裁断・加工が済んだパーツは1階の張り場に運ばれる。これはIBIZA FORTEの座面パーツだ。
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職人達は普段から見られることに慣れているので、集中力が途切れることはない。ガンタッカーの音などを除けばBGMが小さく流れる静かな空間だ。
ちなみに職人達はRitzwell表参道ショップ&アトリエにも週替わりで赴き、ファクトリーとほぼ同じ作業を行っている。
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製作工程の工夫などを解説する職人たちは、すべての工程に熟知している。完全分業ではなくひとりひとりが責任を持って、ひとつの家具を仕上げる意識が重要と考えるからだ。
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端材はなるべく捨てずにノベルティーなどに加工する。見学記念に“R”レザー製ストラップをお配りした。
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職人達が使うキャビネットなども、既成のものを端材のレザーで包んで使用している。
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木製カッターホルダーは手作り。さすが職人器用なもの。日々手に触れるもの故のこだわりだろう。
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ファクトリー内をひと通り見学し、CCCデザインチームの皆さんには以下のようなご感想をいただいた。
「ここまで細かいのか。こんな見えないところまで?と、完成品を見ただけではピンと来なかったけれど、製造過程を見たら納得でした」。「細かいディティール。職人のこだわり。これをユーザーの皆さんにどう伝えるかが自分の課題になりました」。「丁寧なものづくりには多くの工程があり、それだけコストがかかるのは当たり前ですね」。「メンテナンスのサービスがあれば、安心して使い続けることができますよね」。「次回は是非木工の製造過程も見てみたい」などなど。
メンテナンスサービスに関してはすでに、オーナー様専用の『リッツウェル オーナーズデスク』サービスを開始している。HPからお気軽に問い合わせいただきたい。
さて、CCCデザインチームの皆さんにも、Ritzwellのプロダクトコンセプト『愛着を記憶する家具』は、メンテナンスを続けることで愛着が増し、次の代へ引き継がれる家具。製造段階からそのような想いで、職人達の丁寧な手仕事で作られていることを、同じ空気の中で感じていただいたようで大変喜ばしい。
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Ritzwellでは「こんな家具を作りたい」と、代表であり無類の家具好きである宮本が、ゼロからスケッチを行いデザインする。例え現実的ではない構造でも、果敢に試作を重ね、決して諦めない。職人達は宮本の描いたイメージを、現実のものとするために全身全霊で挑戦する。美は細部に宿ると言われるが、Ritzwellの職人達は、見えないところにも宿ることを知っている。
それでこそ、繊細で温かみのある、日本人の精神性までもが込められたデザインへと昇華させることができると信じているから。
深く静かに、五感を研ぎ澄まし追求する場所。それがRitzwell糸島シーサイドファクトリーなのだ。
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玄界灘をバックに記念撮影。
CCCデザインチームの皆さん、遠路はるばるありがとうございました。