=で結ばれる | M様邸 CASE #021

コロナ禍以降、2拠点生活をする人が増えたが、M様ご夫婦はそれ以前から東京⇄福岡の生活を送っていた。バッグひとつで身軽に移動するために家財道具もそれぞれ2軒分。そして2024年の秋に住まいをひとつに統合するための家づくりが始まった。
研究者の家


旦那様:「遠い2拠点はそれなりに大変だなと感じていたこともありました。そんななか、コロナ禍以降テレワークが中心になり、どこにいても基本的な仕事ができるならば、長年、住みたいなと思っていた鎌倉に本当に住もうと思い始めたのが2年ほど前です」。
M様ご夫婦が利便性の良い都市部の2拠点を引き払う決意をしたのは、一昨年に訪れたイスラエルの友人の家で過ごした経験が大きかったそうだ。
旦那様:「友人である数学者のその家は、日本では考えられないくらい広く、そこで1週間以上一緒に過ごした妻が、東京の自宅の狭さを嘆く私のことを不憫に思ってくれたみたいで(笑)」。

奥様:「都内ではなかなか広い家に住むのは大変ですから。それじゃあ主人が昔から住みたいと言っていた鎌倉が良いかなと思いました。リノベーション済みの古民家が良いわねと、私がネットで探してみたんです」。
そして理想的だと思えるような物件を見つけたM様ご夫婦は、早速見学の予約を入れるも、その予定日の直前に売れてしまう。
奥様:「せっかくだから見るだけでも見に行きましょうと鎌倉を訪れました。思った通り素敵な家で残念でしたが、帰り道にたまたま見つけた地元の不動産屋さんに入って、3箇所ほど土地を案内してもらい、お互いに気に入った場所がここでした」。
M様ご夫婦とRitzwellとの出会いは5年ほど前まで遡ることができる。きっかけはダイナーズクラブの会員誌『SIGNATURE(シグネチャー)』に掲載した広告。それは手仕事にこだわるRitzwellが、2019年に新設した自社工場”糸島シーサイドファクトリー”を紹介する記事だった。
奥様:「主人が仕事の合間にリラックスできる椅子はないだろうか?と言っていましたので。その記事で紹介されていたRIVAGEの写真をみて、この椅子ちょっと素敵じゃない?と勧めたんです。主人の前の職場が糸島の近くだったというのも気に入った理由かもしれません」。
鎌倉に集結

おふたりで東京のショールームを訪れ、RIVAGEイージーチェアの実物を確認されたのが2020年の春。奥様はイージーチェアの他に気になる家具と新たな出会いをする。
奥様:「色々見て体感させて頂いて、DIANAソファの座り心地の良さに私は惚れてしまったんです。お行儀悪くその場で寝そべっても最高でした。包まれているような感覚。そこでリフォームした福岡の住まいに購入したいと思いましたが、十分な置き場所が確保できず、三人掛け用ではなく、一人掛け用にしました。
M様ご夫婦とRitzwellの家具たちとの年表がこちら。
2020年5月/RIVAGEイージーチェアを東京のマンション用に購入。
2020年7月/DIANAソファ・1人掛けを福岡のマンション用に購入。
2021年5月/RIVAGEアームチェア(東京)
2022年10月/RIVAGEアームチェア(福岡)
2024年11月/DIANAソファ・3人掛け(鎌倉)
奥様:「引っ越して気が付いてみるとRitzwellの家具に囲まれていました。でも取材のご依頼をいただいた時、自分たちがこの(R’discovery)コーナーに出ても良いのかどうかととっても悩みました(笑)」。
旦那様:「僕たちは家具に強いこだわりや豊富な知識があるわけではありません。ただ、欲しいな、と考えていた家具が、ある日偶然に目の前に現れたのでしょうね。気に入って使っています。出会いは大切にしています。使ってみた感想の一つは、Ritzwellの家具にある安心感のようなものです。そして疲れにくい。極端に主張しないデザインも好きです。サイズ感も大き過ぎず私たちに合った家具だと思います。好ましかった第一印象は今も変わりません。特にRIVAGEのアームの触り心地の良さにはびっくりしました」。



DIANA 1 SEATER SOFA は、シカゴ・アテナイオン グッドデザイン賞2017(アメリカ)や、ドイツ・デザイン賞2019 Special Mention(ドイツ)受賞を受賞した、エポックメイキングな家具だ。ソファで国際的に認められたことは、その後のRitzwellの自信となった。

家の設計は地元鎌倉の建築事務所にお願いしたという。天井を高く、窓を大きくすることだけを要望し、それ以外はおまかせだった。裏庭には今後桜の木を植える予定だそうだ。
奥様:「都内に住んでいた時みたいに、孫たちにすぐ会えないのは少し寂しいですが、この辺りは紅葉もとても綺麗ですし、紫陽花の名所も近所なので楽しみです」。
旦那様:「出社・出勤の機会が少なくなり移動は減りましたが、時間に余裕ができるどころか、オンライン会議などが隙間なくスケジューリングされてしまっています(笑)。コロナ禍以前より忙しいくらいです」。

最近は『なんだかわからないけれど忙しい』とおっしゃる旦那様。書斎のデスクにはメモの走り書きが残る。数学者の方へのインタビューは初めてだったが、普段のお仕事ぶりを垣間見られる書斎の風情には興味が尽きない。
旦那様:「会社と大学にもオフィスはありますが、本は自宅の数倍あります(笑)。今後は民間企業での基礎研究と大学での教育の二足のわらじです。数学で博士号を取得した人でも就職先は主に大学しかないのがほとんどなのです。数学を志す若い人たちの活躍の場を少しでも広げられたらな、と思っています」。




旦那様:「インスピレーションを感じたRitzwellの家具を、その都度、無理のない範囲で購入してきました。計画性はなかったけれど後悔もありません(笑)。今回、家を建てるにあたって家具のサイズに合わせて設計してもらえたのは良かったです。生活と仕事を空間的にはボーダレスに行う環境と、居心地の良い家具に囲まれていますから、これからはもっと良い仕事ができるかもしれません(笑)」。
奥様:「子育てしていた頃に住んでいた鳥取は、のんびりとしていました。子ども達と温泉や砂丘、海に行ったりして。住まいを鎌倉に定めた今、またあの頃のようにのんびり暮らしたいと思っています。お気に入りのRitzwellの家具たちもようやく集結できたし、これからもお互い元気でいなきゃね」。
旦那様:「そうだね、会議もあまりなくて、週に幾つかの授業をすればあとは研究していれば良かったあの頃は、今よりのんびりしていたよね。研究は思うように進まないで悩むことが多いけれど、そもそも好きでやっていることなので、僕にとってはとてもハッピーな数年間だった(笑)」。
奥様:「数年かかって集まってきた家具たちですから、いずれメンテナンスの時期が来ると思います。DIANAのソファは、1人掛けと3人掛けで購入時期に5年近い差があります。オーナーズクラブのメンテナンスセミナーにぜひ参加させて頂きたいと思います」。

M様は同じブラックレザーのDIANAソファを購入されたが、時差やレザー自体のロットによっても色や肌触りの違いは出る。レザーは使い込むほど柔らかくなっていく。全く同じ状態にはならないが、経年変化の度合いはそのままに、一緒に育てていく感じになるだろう。
家具は生活の道具としてだけでなく、時間をかけて使う人の愛着を纏うことで、いつしかかけがえのない魅力的な存在になっていくもの。
Ritzwell owners clubは、そのような、一生ものを求めて家具とともに暮らすオーナー様達をサポートしたいと考え生まれた。オーナー様限定のセミナーや訪問メンテナンスサービスは、Ritzwellスタッフが代わりにメンテナンスするサービスではなく、実演を通してやり方を伝えること。家具を使い続ける中で、オーナー様自身でメンテナンスを行い、正しい状態を維持できるようにするためのレクチャーだ。
目に見えないけれど

旦那様:「僕は現在、企業で基礎研究を行っていますが、それは、短期的にみたときのビジネスに貢献するためではなく、いわば技術開発の基盤となる基本原理の解明や真理の探究です。広く通信技術の向上に貢献し、業界自体の発展に繋げて社会に貢献できるような技術を作るためです。例えば僕が仕事の合間にラウンジチェアに座って、ほっとした瞬間、何気ない居心地の良さを感じる。これって基礎研究と、Ritzwellの家具デザインや職人さんの仕事と共通することなのかなと思ったりします。目に見えないけれど、確かに存在する数式で書かれるような法則を見つけること。家具づくりには設備や材料が必要ですけど、数学は人件費と旅費くらいです(笑)」。

『神は細部に宿る』。建築やものづくりの分野で標語のように唱えられる言葉。緻密さ、サイズ感と素材感。モダンでスタイリッシュなデザインの中にも繊細さを宿し、ぬくもりを伝える素材感は特に重要だ。 Ritzwellのデザインにおいて、異素材を組み合わせる場合には、それぞれの素材の一番魅力的なところを引き出すように心掛けている。
もしかしたら、数学の世界と心地よい家具の世界の広がりは、=(イコール)で結ばれるのかもしれない。
いや、そう仮説を立ててこれからも精進して行こう。
書斎のテーブルに広げられた資料や洋書の中に、湯川秀樹著『目に見えないもの』があった。今度読んでみよう。
M様、新居にお招きいただきありがとうございました。
